コンテンツ本文へスキップ
プリローダーイメージ
スマートフォンサイトはこちら

森の仕事人日記

コンテンツタイトル下地
  • カテゴリー

  • アーカイブ

講師は、できた人より「止まっている人」を見ている|林業研修で大切な見守り方

2026年8月4日

森の仕事人日記 第5回

講師は、できた人より

「止まっている人」を見ている

 


はじめに

林業研修の実習では、上手に作業できる人が目立ちます。

説明をすぐ理解する。
道具を正しく持つ。
手順通りに動く。
次の作業へ迷わず進む。

講師としては、できた人を見て安心します。

しかし、本当に注意して見なければならないのは、順調に動いている人だけではありません。

道具を持ったまま止まっている人。
周囲を見ながら動けずにいる人。
質問したそうなのに声を出せない人。
ほかの受講者より遅れて焦っている人。

止まっている理由は、外から見ただけでは分かりません。

だから講師は、できた人を確認しながら、止まっている人へ目を向けます。

 

 


止まることには理由がある

受講者が動かないと、

「説明を聞いていなかったのではないか」
「やる気がないのではないか」

と思われることがあります。

しかし、実際にはさまざまな理由があります。

次の手順が分からない。
道具の持ち方に自信がない。
失敗して笑われるのが怖い。
体のどこかに違和感がある。
周囲の速さについていけず、焦っている。

慎重に考えているだけの場合もあります。

止まっている姿だけを見て、本人の気持ちを決めつけてはいけません。

動けない人には、動けない理由があります。

講師の仕事は、その理由を叱ることではなく、まず見つけることです。

 


質問できない人もいる

分からないことがあれば、質問すればよい。

教える側は、そう考えがちです。

しかし、質問することが苦手な人もいます。

「こんなことを聞いたら恥ずかしい」
「説明を止めたら迷惑をかける」
「ほかの人はできている」
「自分だけ理解が遅いと思われたくない」

そう考え、分からないまま黙ってしまいます。

林業では、その沈黙を放置すると危険です。

機械を使う。
斜面を歩く。
木の近くで作業する。

分からないまま始めれば、自分だけでなく周囲も危険に巻き込む可能性があります。

だから講師から声をかけます。

「どこまで分かりましたか」
「次は何をする予定ですか」
「一緒に確認しましょうか」

「分かりましたか」と聞くだけでは、つい「はい」と答えてしまいます。

本人が今の手順を言葉で説明できるか、実際の道具を見ながら確かめることが大切です。

 


遅れている人ほど、動きを急ぎ始める

実習では、受講者ごとに覚える速さが違います。

一度で理解できる人。
何度か試して覚える人。
人の動きを見てから始める人。

どの学び方が正しいということではありません。

しかし、周囲が先へ進むと、遅れている人は焦ります。

確認を省く。
道具を急いで持つ。
足元を見ずに移動する。
分からなくても周りの動きをまねる。

本来、ゆっくり確認したい人ほど、無理に速く動こうとします。

講師が「早くしてください」と追い立てれば、焦りはさらに強くなります。

必要なのは、速く動かすことではありません。

一度止めて、どこで迷っているのかを確認することです。

安全教育では、全員を同じ速さで動かすことより、安全に理解させることが優先されます。

 


表情と姿勢にも変化が表れる

止まっている人は、完全に動かなくなるとは限りません。

作業を続けながら、変化が表れることもあります。

表情が硬くなる。
返事が小さくなる。
肩に力が入る。
道具を強く握る。
同じ動作を何度も繰り返す。
周囲を見る回数が減る。

こうした変化は、混乱や疲労、緊張の合図かもしれません。

特に林業機械を扱う実習では、本人が「大丈夫です」と言っていても、そのまま続けさせない方がよい場合があります。

いったん道具を安全に置き、呼吸を整える。

何が分からないのかを聞く。

必要なら、講師がもう一度ゆっくり動きを見せます。

講師は作業の結果だけでなく、その人の表情や体の使い方も見ています。

 


声をかける時に、恥をかかせない

止まっている人へ声をかける時、注意しなければならないことがあります。

大勢の前で、

「何をしているのですか」
「さっき説明しましたよ」
「まだ分からないのですか」

と言えば、本人はさらに質問しにくくなります。

講師に悪気がなくても、その一言が心へ残ることがあります。

少し近づいて、落ち着いた声で聞く。

「ここで少し迷いましたか」
「一緒に確認しましょう」
「急がなくて大丈夫です」

できていないことを責めるのではなく、次に動けるところまで一緒に戻ります。

その場で答えを全部与えるのではなく、本人が分かっている部分も確かめます。

指導とは、できないことを見つけることではなく、再び動き出せる場所を作ることです。

 


できた人にも役割がある

上手にできた受講者を放っておいてよいわけではありません。

正しくできている部分を伝える。
危険な癖がないか確認する。
次の課題を示す。

それも講師の仕事です。

ただし、できた人だけを褒め続けると、ゆっくり学ぶ人は自信を失います。

研修は、順位を決める場所ではありません。

全員が安全に仕事を覚え、現場へ進めるようにする場所です。

早くできた人。
時間をかけて覚えた人。
途中で質問した人。
一度止まってやり直した人。

それぞれの学びがあります。

講師は結果だけでなく、安全に学ぼうとした過程を見ます。

 


おわりに

講師は、できた人だけを見ているのではありません。

道具を持ったまま止まっている人。
質問できずにいる人。
遅れて焦っている人。
表情や姿勢が変わった人。

そうした人へ気づき、声をかけます。

止まっていることを責めるのではなく、理由を探す。

分からないところまで戻る。
もう一度確認する。
安心して質問できる場所を作る。

林業の技術を教えるだけでは、安全な人材は育ちません。

その人がどこで止まり、何に困っているのかを見ることも、講師の仕事です。

できた人の数だけでなく、止まっていた人が再び安全に動き出せたか。

そこに、研修の本当の成果が表れます。

 


彩ちゃんのひとこと

「講師は、上手にできた人を中心に見ているのだと思っていました。

でも本当に気づかなければならないのは、道具を持ったまま止まっている人や、質問できずにいる人なんですね。

遅れているから急がせるのではなく、どこで迷ったのかを一緒に確かめる。

安心してもう一度始められる場所を作ることも、大切な指導なんだと思いました。」

 


note更新のお知らせ(7月29日更新)

彩ちゃんの安全物語 46話

『その慣れ、危険を小さく見せていないか?』

noteで読む

カテゴリ:森の仕事人日記
コンテンツ本文の先頭へ戻る ページの先頭へ戻る
コンテンツ本文の先頭へ戻る ページの先頭へ戻る