

2026年7月10日
林業の仕事は、どこで終わるのでしょうか。
木を伐り終えた時でしょうか。
予定した作業量をこなした時でしょうか。
チェーンソーのエンジンを止めた時でしょうか。
私は、それだけではないと思っています。
道具を片付ける。
仲間の様子を見る。
忘れ物がないか確認する。
山道を安全に戻る。
車で現場を離れる。
そして、いつもの暮らしへ帰る。
そこまでが一日の仕事です。
森で働く人にも、帰る場所があります。
家族がいる人もいる。
一人で静かに暮らしている人もいる。
夕食を待っている人もいる。
愛犬が待っている人もいる。
翌日の仕事を考えながら帰る人もいる。
林業は森の中だけで完結する仕事ではありません。
森で働くということは、無事に暮らしへ帰ることまで含んでいる。
今日は、そんな話を書きます。
林業の仕事では、どうしても作業量に目が向きます。
何本伐ったか。
どれだけ搬出したか。
どこまで作業が進んだか。
予定通り終わったか。
もちろん、仕事ですから成果は必要です。
しかし、作業量だけで一日の良し悪しを決めてはいけません。
予定より進まなかった。
暑さで休憩を多く取った。
危険を感じて作業を中止した。
木の状態が悪く、翌日に回した。
こういう日もあります。
見方によっては、仕事が進まなかった日に見えるかもしれません。
しかし、無理をせずに戻った。
事故を起こさなかった。
仲間を守った。
明日も働ける状態で帰った。
それも大切な成果です。
林業の成果は、伐った木の本数だけでは測れません。
現場では、続ける判断より、やめる判断の方が難しいことがあります。
せっかくここまで来た。
あと一本で区切りがつく。
もう少しならできそうだ。
予定より遅れている。
仲間に迷惑をかけたくない。
そう思うと、なかなか止められません。
しかし、森の条件は人間の都合に合わせてくれません。
風が強くなる。
雨が降る。
足元が悪くなる。
体調が落ちる。
集中力が切れる。
道具の調子が変わる。
そういう時に続ければ、危険は大きくなります。
「今日はここまでにしよう」
この一言を言えること。
それは弱さではありません。
現場を守る判断です。
作業が終わると、人は気が緩みます。
チェーンソーのエンジンを止めた。
道具を片付けた。
今日の予定が終わった。
ほっとする瞬間です。
しかし、林業の事故は作業中だけに起きるわけではありません。
斜面を下りる時に滑る。
疲れて足が上がらず、つまずく。
道具を持ったまま転ぶ。
車まで戻る途中で集中が切れる。
帰りの運転で眠気が出る。
一日の最後は、体も頭も疲れています。
だからこそ、帰り道まで安全作業です。
急がない。
足元を見る。
荷物を持ちすぎない。
必要なら何度かに分ける。
疲れていたら休む。
運転前に水分を取る。
山を下りるまで、仕事は終わっていません。
疲れている時ほど、片付けは雑になりやすいものです。
チェーンソーをそのまま置く。
手袋を濡れたままにする。
燃料缶を片付けない。
防護具を車に放り込む。
刃やチェーンの状態を確認しない。
「明日やればいい」
そう思うこともあります。
しかし、今日の片付けは、明日の準備でもあります。
道具を清掃する。
異常がないか見る。
燃料やオイルを確認する。
濡れた装備を乾かす。
壊れたものを分けておく。
これをしておけば、翌朝の不安が減ります。
道具を整えて帰ることは、単なる几帳面さではありません。
明日の自分と仲間を守る仕事です。
林業は、一人で完結する仕事ではありません。
仲間と声をかけ合い、役割を分け、危険を共有します。
だから、一日の終わりには仲間の様子を見る必要があります。
顔色はどうか。
返事はいつも通りか。
ふらついていないか。
疲れ切っていないか。
水分は足りているか。
帰りの運転は大丈夫か。
本人が「大丈夫」と言っていても、周りだから気づけることがあります。
少し休ませる。
水を飲ませる。
荷物を代わる。
運転を交代する。
一人で帰らせない。
こうした判断も、安全作業です。
自分が帰るだけではなく、仲間も帰す。
それが現場の責任です。
森で働く人の家族は、現場のすべてを見ることはできません。
どんな斜面だったのか。
どんな木を伐っていたのか。
どれくらい暑かったのか。
どれほど危険な判断があったのか。
分からないことの方が多いと思います。
でも、帰宅する音を聞けば安心します。
車が戻ってきた。
玄関が開いた。
「ただいま」という声がした。
その瞬間に、その日の仕事が終わります。
林業は危険を伴う仕事です。
だからこそ、家へ帰ることには重みがあります。
無事に帰ることは、本人だけの問題ではありません。
待っている人の安心にもつながっています。
林業は、森の中で働く仕事です。
しかし、その目的は森の中だけにあるわけではありません。
木を育てる。
木を伐る。
木を運ぶ。
木材として使う。
家や家具になる。
地域の暮らしを支える。
森での仕事は、暮らしにつながっています。
そして、働く人自身もまた、暮らしの中にいます。
仕事があり、家があり、食事があり、休む時間があり、家族や仲間がいる。
だから、森と暮らしを切り離してはいけません。
森で無理をして暮らしを壊してしまっては、長く働けません。
林業は、森を守る仕事であると同時に、働く人の暮らしを守る仕事でもあります。
山仕事では、我慢強さが評価されることがあります。
暑くても働く。
疲れていても休まない。
多少の痛みは我慢する。
予定が終わるまで戻らない。
そういう姿が「仕事ができる人」に見えることもあります。
しかし、本当に仕事ができる人は、自分と現場の状態を読める人です。
今日は無理をしない。
作業量を減らす。
休憩を入れる。
道具を調整する。
危ない時はやめる。
この判断ができます。
一日だけ頑張ることより、長く働き続けることの方が難しい。
無理をしないことは、逃げではなく継続するための技術です。
林業は、一日で終わる仕事ではありません。
今日伐ったら終わりではない。
今日植えたら終わりでもない。
今日下刈りをしたら終わりでもありません。
森は何十年、何百年という時間で続いていきます。
だから、森に関わる人も、続けていくことが大切です。
今日無理をして怪我をすれば、明日は森へ行けません。
体を壊せば、長く働けません。
仲間を失えば、現場も続きません。
今日、無事に帰る。
そして明日、また森へ向かう。
この繰り返しが、林業を支えます。
林業で大切なのは、今日だけの成果ではなく、明日へつながる仕事をすることです。
彩ちゃんが森で働くなら、きっと一生懸命に仕事をすると思います。
道具を覚える。
木を見る。
作業を覚える。
仲間についていく。
頑張ることは大切です。
でも、それと同じくらい覚えてほしいことがあります。
無理をしない。
疲れを認める。
水を飲む。
道具を片付ける。
仲間を見る。
山を安全に下りる。
暮らしへ帰る。
森で働く時間だけが人生ではありません。
帰った後の暮らしもあります。
食事をする。
体を休める。
家族と話す。
好きなことをする。
翌日の準備をする。
そういう時間があるから、また森へ向かえます。
彩ちゃんには、仕事を頑張れる人であると同時に、
無事に暮らしへ帰れる人になってほしいと思います。
森で働くということは、木を伐ることだけではありません。
道具を整える。
仲間を確認する。
無理なら止める。
山を安全に下りる。
車で現場を離れる。
そして暮らしへ帰る。
そこまでが一日の仕事です。
作業量が少なくても、無事に帰れば明日があります。
予定を変更しても、事故を起こさなければ次があります。
森は長い時間で続いていきます。
だから、森で働く人も、長く続けられなければなりません。
森で働くということは、暮らしへ帰ることまで含んでいる。
今日も無事に帰る。
そして明日も、森へ向かう。
それが、林業を続けていくための一番大切な基本です。
「森の仕事は、木を伐り終えたら終わりではないんですね。
道具を片付けて、仲間を確認して、山を下りて、暮らしへ帰る。
そして体を休めて、また明日、森へ向かう。
無事に帰ることは、今日を終わらせるだけでなく、明日の仕事につなげることなんだと思いました。」
※フォレストカレッジホームページ
https://www.young-leaves.com/