

2026年10月19日
木の香りを感じたことはありますか。
新しく切った丸太。
カンナで削ったばかりの板。
ヒノキのお風呂。
木をふんだんに使った家。
そんな場所で、ふっと鼻に届く独特の香り。
「いい木の香りがするね」
何気なく口にする言葉ですが、考えてみると不思議です。
木は、どうして香るのでしょうか。
同じ木材なのに、スギとヒノキでは香りが違います。
切ったばかりの木と、長く使っている木でも感じ方が変わります。
実は、この香りにも木が持っている性質が関係しています。
林業の魅力シリーズは前回、第550弾を迎えました。
新しい50回の始まりとなる今回は、木を「見る」だけでなく、香りから木の世界を知るところから始めたいと思います。
木材は、セルロースやヘミセルロース、リグニンなどを主な成分としてできています。
でも、それだけではありません。
木には、樹種ごとに特徴のあるさまざまな成分も含まれています。
その中には、空気中へ少しずつ出ていくものがあります。
こうした揮発性の成分が鼻に届くことで、私たちは木の香りを感じます。
特にスギやヒノキなどの針葉樹では、テルペン類と呼ばれる成分の仲間が香りに大きく関わっています。
テルペン類には多くの種類があり、どの成分がどのくらい含まれているかによって、香りの特徴が変わります。
つまり、木の香りは一つの物質だけでできているわけではありません。
木が持つさまざまな成分が組み合わさって、その木らしい香りが生まれているのです。
日本の林業でなじみの深い木といえば、スギとヒノキです。
どちらも建築材などに広く使われています。
でも、新しく削った材を比べてみると、香りの印象が違います。
スギは、やわらかく温かみのある香りと表現されることがあります。
一方、ヒノキは、すっきりとした清涼感のある香りとして親しまれています。
もちろん、香りの感じ方には個人差があります。
また、同じ樹種でも木材の部位や乾燥状態などによって違いがあります。
なぜ、こうした差が出るのでしょうか。
それは、樹種によって香りに関係する成分の種類や割合が異なるためです。
見た目が似ていても、木の中に含まれる成分まで同じではありません。
木の名前を知らなくても、
「この木と、あの木は香りが違う」
と感じる。
そこから木への興味が始まることもあります。
木材を加工していると、興味深いことがあります。
長い間置かれていた板をカンナで削る。
すると、ふっと新しい木の香りが広がることがあります。
どうしてでしょうか。
木材の表面は、空気に触れ続けています。
時間とともに、表面付近の揮発しやすい成分は減っていきます。
しかし、木材の内部には、まだ香りに関係する成分が残っている場合があります。
そこで表面を削ると、内部にあった新しい面が現れます。
その結果、香りを再び感じやすくなることがあるのです。
もちろん、樹種や保存状態によって違いがあります。
木を削ると、新しい木目と一緒に、その木が持っている香りにも出会える。
これは木工やログハウスづくりでも感じられる、木ならではの面白さです。
前回の第550弾では、
「木は、伐られたあとも『乾く時間』が必要になる」
という話を書きました。
木は伐採されたあとも水分を含んでいます。
その水分を用途に合わせて減らしていくのが木材乾燥です。
実は乾燥の過程では、水分だけでなく、香りに関係する揮発性の成分も木材から放散されます。
そのため、乾燥前と乾燥後では香りの印象が変わることがあります。
天然乾燥なのか。
人工乾燥なのか。
どんな温度や条件で乾燥させたのか。
そうしたことも、香りの変化に関係します。
ただし、人工乾燥だから必ず香りがなくなるというわけではありません。
樹種や条件によって結果は異なります。
木材乾燥は、木の水分を調整するだけでなく、香りにも変化が起こる工程なのです。
新築の木の家に入った時、
「木の香りがする」
と感じることがあります。
でも、何年か暮らしているうちに、最初ほど香りを意識しなくなることがあります。
木の香りがすべて消えてしまったのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
木材の表面から放散される香り成分は、時間とともに変化していきます。
その一方で、人の鼻も同じ香りに慣れていきます。
最初は強く感じた香りでも、長くその場所で過ごしていると意識しにくくなることがあります。
また、木材によっては、長い年月がたっても内部に香り成分が残っている場合があります。
木の香りは、時間とともに変化しながら、木材の中にも残っていることがあるのです。
木は、使い始めた時だけでなく、使い続ける間にも変化しています。
森の中に入った時にも、独特の香りを感じることがあります。
湿った土。
落ち葉。
草。
樹木の葉。
樹皮。
そして木そのもの。
森には、さまざまな香りがあります。
だから、森の中で感じる香りと、製材した木材から漂う香りは、必ずしも同じではありません。
例えば、雨が降ったあとの森と、乾いた晴天の日の森では、香りの印象が違います。
朝と午後でも、感じ方が変わることがあります。
森の香りは、樹木だけでなく、土や植物など多くのものがつくる香りです。
一方、製材した木材では、その木が持つ成分をより直接的に感じることがあります。
森で感じる香りと、木材で感じる香り。
両方を比べてみるのも面白いものです。
木の香りは、木材の特徴の一つです。
例えば、ヒノキの風呂。
スギやヒノキを使った内装。
無垢材の家具。
木工製品。
そうしたものに触れた時、見た目や手ざわりだけでなく、香りを楽しむ人もいます。
ただし、香りの好みは人によって違います。
ある人には心地よくても、別の人には強く感じられることがあります。
だから木の香りは、誰にとっても必ず良いものだと決めつける必要はありません。
大切なのは、木には香りという個性もあることを知ることです。
色。
木目。
硬さ。
手ざわり。
そして香り。
木材には、いろいろな特徴があります。
それらを生かして使うところにも、木のある暮らしの魅力があります。
森林で働く人は、木をさまざまな方法で見ています。
葉の形。
樹皮。
枝の付き方。
木口の色。
年輪。
そして、木材を加工した時の香り。
こうした特徴も、木を知る手がかりになります。
もちろん、香りだけで樹種を正確に判断できるとは限りません。
同じ樹種でも個体差がありますし、乾燥や保存状態によっても変わります。
でも、
「スギとヒノキでは違うね」
「削ると香りが変わるね」
という発見は、木の性質を知るきっかけになります。
専門的な名前を覚える前に、まず自分で感じてみる。
木の香りは、林業を知らない人にも開かれている、木の世界への入口です。
一本の木が森で育つ。
何十年もかけて幹が太くなる。
その間に、木の中にはさまざまな成分がつくられます。
やがて木が伐られる。
丸太になる。
製材される。
乾燥する。
その道のりの中で、木の香りも少しずつ変わっていきます。
新しく削った時に強く香ることもあります。
長い年月の中で、香りが穏やかになることもあります。
でも、香りという特徴を知ることで、木をただの材料とは違う視点から見ることができます。
木の香りは、木が持っている成分から生まれる、その木ならではの個性です。
第550弾では、木が乾く時間を考えました。
第551弾では、その時間の中で変化する香りを見てきました。
木は、見ても面白い。
触っても面白い。
そして、香りからも知ることができる。
これからも林業の魅力シリーズでは、そんな木と森の世界を、一つずつ紹介していきたいと思います。
「スギやヒノキを削った時の香りって、私も好きです。
でも、その香りがどこから生まれるのか、あまり考えたことがありませんでした。
木の中には、香りに関係する成分があって、木の種類によっても違う。
乾燥や時間によっても変わるんですね。
今度スギとヒノキを比べる時は、色や木目だけでなく、香りも確かめてみたいです。
木って、目で見るだけじゃ分からない魅力がいっぱいあるんですね。」
※フォレストカレッジホームページ
https://www.young-leaves.com/