2025年8月8日
林業の魅力シリーズ第289弾
森は考える―人間的なるものを超えた人類学|
森と人の境界を超える知の旅
今日ご紹介するのは、エドゥアルド・コーン著
『森は考える―人間的なるものを超えた人類学』です。
本書は、エクアドル・アマゾンの森とそこで暮らす人々、
動物、植物の関係を通じて、
「思考」というものを人間だけの営みとせず、
森全体が持つ知性や意味生成のプロセスを探る一冊です。
林業や自然と向き合う私たちにとっても、
深い示唆に満ちています。
1. 著者と背景
エドゥアルド・コーンはカナダ・モントリオールのマギル大学で
人類学を教える研究者。
彼は長年、エクアドルのアマゾン地域に暮らし、
先住民ルナ族と共に生活しながら、
森と人、動物、精霊的存在との相互作用を記録しました。
本書はそのフィールドワークを土台に、伝統的な人類学を超える
「人間中心ではない」世界観を提示しています。
2. 森は“生きて”考える
本書の最大の特徴は、「森が考える」という挑戦的な主張です。
ここでいう「考える」とは、人間の頭の中の思考だけでなく、
生態系のあらゆる存在が互いに意味をやり取りするプロセスを指します。
例えば、動物の足跡は他の動物や人間にとっての情報となり、
植物の開花は昆虫にとっての信号となる。
このように森は、種を超えた“記号のやり取り”によって
生きた情報網を形成しているのです。
3. 林業への示唆
林業は木を伐るだけの営みではありません。
本書は、木や森が発する“サイン”を読み取ることの
重要性を教えてくれます。
立木の生育方向、樹皮の色の変化、枝葉の付き方、周囲の生態の変化─
これらは全て森からのメッセージです。
持続可能な森林経営は、このメッセージを読み解く力と、
人間の都合だけではない判断軸を持つことから始まります。
4. 読後の印象
『森は考える』は哲学書でもあり、フィールド記録でもあり、
森との付き合い方を根本から問い直す書です。
「人間中心の視点から一歩外に出る」ことは、
林業や環境保全に携わる人々にとって極めて有効な視座を与えてくれます。
森を資源としてだけでなく、パートナーとして捉える姿勢は、
日本の里山管理や長期的な森林循環にも通じます。
『森は考える』は、森を単なる背景や資源ではなく、
「思考する存在」として尊重する重要性を説く一冊です。
林業従事者はもちろん、森に興味のあるすべての人にとって、
自然との向き合い方を深める契機になるでしょう。
※フォレストカレッジホームページ
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