

2025年7月18日
林業の魅力シリーズ 第277弾
山は、人を呼ぶ・・
『山怪 山人が語る不思議な話』が教えてくれること
2025年7月18日、金曜日。
「林業の魅力シリーズ」も本日で第277弾を迎えました。
今月よりこのシリーズは埼玉県林業技術者育成研修から独立し、
より自由な形で森・自然・文化・人のつながりを発信しています。
金曜日は、本を通して林業や自然との向き合い方を考える日。
本日は、現代の林業者こそ読んでほしい一冊をご紹介します。
本日の一冊
『山怪 山人が語る不思議な話』
著者:田中康弘(山と溪谷社)
山に棲む“何か”を信じる理由
山に入るとき、ふと足を止めることがあります。
気配が変わった。
風が止んだ。
音がしない。
そんなとき、何かが「いる」と感じたことはないでしょうか。
本書『山怪』は、山に生きる人々の“語られなかった不思議な体験”を
まとめた実話集です。
林業従事者、猟師、山小屋の主、山村の老人たち・・
「山に棲んでいる人々」が語る、リアルで静かな“異界の記録”。
「怪談」ではなく、「記録」
この本は、いわゆる怪談とは違います。
おどろおどろしい演出も、恐怖を煽る文体もありません。
著者・田中康弘氏は、カメラマンとして長年にわたり山間地を訪ね歩き、
地元の人々から実際に聞いた話を淡々と記録していきます。
だからこそ、語られる内容はリアルで、
どこか「自分にも起こるかもしれない」と感じさせられるのです。
林業者が共感する“山の感覚”
印象的なのは、語り手たちが口を揃えて言う一言。
「見たわけじゃない。でも、確かにそこにいた。」
これは、山で長年作業してきた人であれば、
きっと心当たりがあるはずです。
見えない何かの気配に「気づく」能力は、
実は山仕事をする上で非常に大切な感覚でもあります。
例えば・・
風の流れの異常
鳥の鳴き止み
動物の異常行動
地面の沈みやにおいの違和感
これらの感覚は、災害や事故の予兆でもあるのです。
科学では割り切れない「山」という世界
本書の中では、時に「カシマ様」「モノノケ」「狐憑き」「山の霊」など、
昔から語り継がれてきた言葉も登場します。
しかし、著者はそれを否定も断定もせず、
その人にとっての“真実”として記録する姿勢を崩しません。
それがこの本の最大の魅力。
読んでいると、自分が山に対して忘れていた
「敬意」や「恐れ」がよみがえってきます。
山には“理屈だけでは測れない世界”がある
林業に携わる者として、
私たちはつい「計画」「効率」「合理性」に目を向けがちです。
けれど、山はもっと大きな存在であり、
人智の及ばぬところで動いています。
『山怪』を読むことで、
そんな“山と人の境界”にある何かを感じ取れるかもしれません。
ぜひ静かな夜、山に思いを馳せながら読んでみてください。
※フォレストカレッジホームページ
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