2025年10月10日
林業の魅力シリーズ第333弾
『炭焼き日記 吉野熊野の山から』──
火と森、人の暮らしをつなぐ手記
「炭焼き」と聞くと、
昔の暮らしを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、木を伐り、窯を組み、火を見守り、炭を取り出す──
この一連の営みは、まさに森と人間の共生の原点です。
宇江敏勝さんの『炭焼き日記 吉野熊野の山から』は、
その手仕事を、静かで確かな筆致で綴った珠玉の一冊。
自然の厳しさと温もり、
そして人の生き方を映す“林業の詩”ともいえる作品です。
炭焼きという営みのリズム
炭焼きとは、木を燃やすのではなく「生かす」仕事。
窯の中でゆっくりと水分を飛ばし、木の本質を残す。
その過程には温度、湿度、風の微妙な見極めが必要です。
宇江さんはその様子を「炭が焼ける音で火の呼吸を感じる」と表現します。
まさに、森と会話をしながら生きる職人の記録です。
山と人の距離感
本書には、単なる技術や風景以上に、「生きる姿勢」が描かれています。
孤独や静寂、山の冷たさの中にある“人の誇り”と“自然への敬意”。
それは現代の林業にも通じる精神です。
「木を使うとは、森の命を次に渡すこと」──
この言葉に、林業者としての心の軸が見えるようです。
現代林業への示唆
炭焼きの現場は、機械化が進む今もなお、手作業の極致。
効率では測れない「人の温度」がそこにあります。
SDGsや循環型社会が語られる今日、
この“手間の尊さ”こそ再評価されるべき価値でしょう。
『炭焼き日記 吉野熊野の山から』は、
木を扱う人、自然を愛する人、
そして“火”と“森”に魅せられたすべての人に読んでほしい一冊。
炭の煙の向こうに、
生きるという行為そのものの意味が見えてきます。
書籍情報
著者:宇江 敏勝
出版:晶文社(2022年改訂版)
定価:1,870円(税込)
対象:林業関係者・自然愛好家・学生
note連載「彩ちゃんの安全物語」更新情報
2025年10月8日 更新!
第6話『森を守るって、どういうこと?』
倒木処理の現場で、彩ちゃんが“森を守る”という言葉の意味に向き合う回です。
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